キャリートレードの巻き戻し発生!ゼロ金利時代の終焉とこれから

05/19 17:04

7月31日(水)、日銀が政策金利を0.25%に引き上げました。植田総裁のこれまでにないタカ派なスタンスを受けて、「円キャリートレードの急激な巻き戻し」が発生し、日経平均株価は大きく下落しました。金融市場は依然として荒れた展開が続いています。今回は、株式市場の下落のトリガーの一因となった円キャリートレードの仕組みを解説し、今後の展開について探ります。

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円キャリートレードとは?

円キャリートレードとは、低金利の円を利用して高金利の資産に投資する戦略です。

外国人投資家は円キャリートレードにより、円を調達し、それを高金利の通貨や資産に投資することで差分から利益を得ようとします。そのため日本の長期にわたるゼロ金利は魅力的でした。

各国政策金利(2024年8月8日時点)

政策金利

日本

0.25%

米国

5.25%

~5.50%

英国

5.00%

ユーロ

(預金ファシリティ金利)

3.75%

キャリートレードの流れ

1. 円を調達

日本国債を売る、低金利で円を借り入れるなどして円を調達。

  • 円キャリートレードが活発になると、円の借り入れが増加し、円の供給が増えることで円安が進行する。

2. 外貨に交換

円を米ドルなどの高金利の通貨に交換(円売り、ドル買い)。この通貨交換過程でさらに円安が進行。

3. 高金利資産に投資

調達した外貨で、高金利債をはじめ、日本株や他のリスク資産に投資。

  • 例えば、10億円を0%の金利で借り入れ、それを5%金利の米国債に投資する場合、約5%の利益が得られる。金利差5%から利益が生まれる(手数料等は加味していません)。

4. リスク資産が上昇

米国債だけでなく、マグ7、日本株、ビットコインなどのリスク資産が買われて上昇。

  • 円安により日本の輸出企業の収益が好転・増加するため、日本株を買う投資妙味。

円キャリートレードを行う投資家サイドのリスク

為替レートが変動することで、円高が進行すると、借りた円を返済する際に損失が発生するという為替リスクがあります。円キャリートレードを行う投資家は、円高リスクをヘッジするために、先物取引やオプションなどのデリバティブを利用することがあります。これにより、為替リスクを軽減しつつ、金利差からの利益を享受することができます。しかしながら、これらの複雑な取引が目下のボラティリティを増大の原因でもあるわけです。そして、日銀の利上げとFRBの利下げは金利差縮小となるため、キャリートレードを行う投資家にとっては悪材料です。

円キャリートレードの「巻き戻し」による市場の変動

日本銀行の7月31日の利上げは、円の調達コストの上昇を意味します。

できるだけ簡単に言うと、円を貸している日本の銀行が円を借りた外国人投資家に、追加で担保を要求します。そうなると、外国人投資家は、追加の担保を払うか、これまで保有していたリスク資産を売ってポジションを手じまいする選択を迫られます。後者のリスク資産手じまいの動きが世界同時多発的に発生し、円キャリートレードの「巻き戻し」が一挙に起こり、これが市場のボラティリティの原因になっています。

  • 円キャリートレードの「巻き戻し」が起こると、借りた円を返済するために円の需要が急増し、円高に転じる。

「巻き戻し」で日本株市場に大きな影響

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今後はどうなる?

また、米国の景気後退懸念が米国株の下落を通じて日本市場にも影響を与え、結果として日本株の大幅な下落の追い風にもなりました。7日、日銀の副総裁が「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要がある」と火消しましたが、実際のところ、日銀に取れる対応策は極めて限定されていると考えるのが妥当です。米国の政策金利は5.25%~5.5%で緩和の余地があるのに対し、日本の政策金利はやっとのことで0.25%程度です。今後の日銀会合のたびに投資家の懐疑の視線は集まるにせよ、実質的な今後の市場の争点は、FRBの金融政策になってきます。

JPMは8日、「年初来のリターンが直近の相場下落で全て失われる状況を受け、円キャリートレードの75%が解消されたと分析するも、リスクオフの環境が終わったとの判断は時期尚早」との認識を示しました。米国経済が失速し、さらにFRBが長期連続利下げを要するような、金融面での問題が米国発で世界に広がる事態となれば、今以上の調整する可能性もあるでしょう。

債券市場

9月のFOMCでFRBが通常の0.25%ではなく0.5%の利下げを実施し、11月、12月も連続して利下げするとの見方も浮上し始めており、ドル安円高に拍車をかけることとなりました。米国が利下げを行い、金利が下落すると、米国債の価格は上昇します。この動きにより、米国の債券投資の魅力が増し、投資家は米国債に資金を移す可能性があります。

米国の利上げは円高要因です。仮に米利上げと円高が進行すると、円キャリートレードの巻き戻しが進む可能性があります。この際、投資家が円を買い戻すことで円高がさらに進行します(借りた円を返す必要があるから)。その結果、日本国債の売却が増え、国債利回りが上昇し、債券価格が下落する可能性があります。そこで、例えばGPIFが安全資産としての国債を買い戻すことで、債券価格が上昇し、利回りが下落するといったことも考えられます。

日本の長期金利の上昇は、企業の借入コストを増加させ、日本経済全体に対する負担を増やすことになります。さらに、日本のインフレ率が予想を超えて上昇する場合には、植田総裁が言ったように「(日銀の)経済・物価の見通しが実現すれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げる」ことになるのでしょう。実際の生活実感はともかくとして、実質賃金も27カ月ぶりに上昇しました。

株式市場

そもそも、日本株上昇大きな要因の1つが、円安でした。円安が進むことで、日本企業の輸出競争力が高まり、企業収益が増加しやすくなります。一方で、円高が進むと、企業収益が圧迫され、株価が下落する可能性があります。特に、輸出依存度の高い企業にとって、円高は悪材料となります。また、日経平均株価指数の構成銘柄の多くは円安恩恵輸出企業です。

今後はFRBによる利下げで、株式市場の資金は以下の図のようにローテーションしていくことが想定されます。リスク資産であるグロース株、半導体シクリカル、新興国などから、より安全とされる米国債、バリュー株、ディフェンシブ株へのローテーションが起こると予想できます。例えば、バフェット氏もアップルを半分売却して、OXYを増やしていることからも、同氏が市場の変容をどのように受けとめているのかを見てとれます。

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ほかの投資戦略

  • 高配当銘柄でインカムゲインを確保する、日本株で円高傾向が強まりそうなら内需や海外売上の割合が少ないもの

  • 金利上昇や東証・株主の圧力に耐えかねた日本企業のMBOプレミアムを狙う

まとめ

円キャリートレードは、低金利の円を利用した投資戦略として、主に海外投資家に利用されてきました。しかし、直近の日銀の利上げや米国の利下げ期待により、この戦略自体の魅力が薄れつつあります。また、円高の進行や円キャリートレードの巻き戻しが市場に大きな影響を与える可能性が引き続きあります。日米の金融政策会合や経済統計の発表時の注視は投資家にとって重要なのは言うまでもないですが、ドル円は日本の祝日を狙って取引を仕掛けられることもあり、為替相場の急変動が起こりやすい点も知っておくとよいでしょう。

(2024年8月9日作成)

これらの内容は、情報提供及び投資家教育のためのものであり、いかなる個別株や投資方法を推奨するものではありません。こちらの投資情報は説明目的の用途でのみ提供されており、すべての投資家にとって適切であるとは限りません。 詳細情報