リスクか、チャンスか。 下落時に注目したい、バフェット保有のアメリカ化学・石油企業らを解説
2025/4/17
ごりお
1.はじめに
いま、アメリカの化学・石油セクターは厳しい局面に立たされています。例えば化学セクターは年初来で約15%の下落を記録し、S&P500をおよそ7%下回るパフォーマンスとなっています。こうした状況を受け、バンク・オブ・アメリカは米国の化学セクターに対する投資判断を引き下げました。
背景にあるのは、やはりトランプ大統領の政策です。実際に化学セクターの下落は4月以降に拡大しており、「関税強化」や「貿易摩擦」などのリスクが意識され始めたタイミングと重なります。景気敏感株である化学・石油関連銘柄に対して、投資家心理が慎重になった構図といえます。
短期的には、関税政策によるコスト増や外需の減退といったリスクに直面し、先行きが不透明な状況が続くと予想されます。一方で、現在の株価水準には割安感があり、配当利回りも上昇傾向にあります。
またトランプ政策には、中長期的に見れば、「国内生産の推進」、「エネルギー政策の強化」、「減税」といった、景気の底上げやコスト構造の改善につながる要素も含まれています。
つまり、こうした混迷の中にあっても、中長期の視点で「アメリカの化学・石油産業」の土台を見つめ直すと、新たな投資チャンスが見えてくるかもしれません。
実際に著名投資家ウォーレン・バフェット氏は昨年末、下落トレンドにある米石油大手のオクシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)へ追加投資したと報じられています。
本レポートでは、こうした視点に立ち、アメリカを代表する化学・石油メーカーを取り上げながら、現状と今後の展望を読み解いていきます。さらに後半では、バフェット氏が保有する関連銘柄にも注目し、長期投資という観点からその可能性を探っていきます。
2.アメリカの化学メーカーについて
本章では、アメリカの化学業界の特徴と、代表企業について解説します。
アメリカはダウ(Dow)やデュポン(DuPont)といったグローバルトップ企業を擁する一大化学大国であり、その存在感は決して小さくありません。実際に、化学産業が直接生み出す価値に加えて、他の多くの産業(自動車、建設、農業、ヘルスケアなど)に素材や製品を供給する間接的な効果も含めると、化学産業がアメリカのGDPの25%を支えているともされています。
2-1. アメリカの化学業界の特徴
アメリカと日本の化学メーカーを比較すると、その戦略や構造にはいくつかの違いがみられます。特に分かりやすいのが、「選択と集中」を通じた事業再編の進め方です。
アメリカの大手化学メーカーは、競争力のある分野を「戦略的事業」と位置づけ、M&Aによって将来のシーズを取り込みながら拡大を図ってきました。一方で、将来的な収益性が見込めない「非戦略的事業」については、思い切って分社化や売却を進めています。
このような動きの結果として、アメリカでは企業の数が減少し、上位企業の市場シェアが高まる傾向にあります。対して日本の化学業界は利益よりも技術志向が強く、ニッチ企業が群雄割拠するなど、少し異なる風景が広がっていますね。
アメリカを代表する化学メーカーとしては、やはりダウとデュポンの2社が挙げられます。長年にわたって業界をリードしてきたこの2社も、時代の変化に応じて事業ポートフォリオの見直しを進めてきました。
以降、2社の概要について解説します。
2-2. ダウとデュポンの概要
続いて、ダウとデュポンの概要を解説します。
両社、現在ではそれぞれ異なる分野で強みを発揮する企業へと進化しています。具体的には、デュポンが「脱石油化学」で機能化学に特化してきたのに対し、ダウは「石油化学と機能化学」からなる総合化学メーカーの色が濃くなります。 足元の業績や指標をまとめたものがこちらです。
表1.ダウとデュポンの比較(※2025/4/15時点)
売上規模に関しては、両社100億ドル(≒1.5兆円)を超える大手企業です。基礎化学品を含めた幅広い事業領域を持つダウが規模では勝ります。一方で、ROEやROAといった収益性指標を見ると、両社ともに苦戦を強いられている状況が見て取れます。世界的な景気の減速やインフレに伴うコスト上昇が、収益の圧迫要因として挙げられます。
対して株主還元に着目すると、特筆すべきはダウの配当利回りの高さ。現時点で、なんと9.84%という驚異的な数字です。ただし、自己資本比率は少し懸念される水準で、その持続性については今後の業績がカギを握ります。
本レポートではアメリカの化学メーカーを代表し、ダウを深堀りして解説します。
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3-3.個別分析:ダウ・インク
ダウは、世界的に展開する総合化学メーカーであり、幅広い製品群を有しています。北米における安価なシェールガスや、グローバル展開が強みと言えます。
本章では、ダウの事業内容や業績を解説します。
・事業別売上高比率
ダウは川上から川下まで手広く手掛ける総合化学メーカーで、北米市場では安価なシェールガスが強みとなります。なかでも主力は、売上の半分を占める包装・特殊プラスチック部門です。主にポリエチレンやポリプロピレンなど石油化学系の材料を扱い、食品・医薬品・消費財の包装材料や産業用フィルムとして広く展開しています。
・国別売上高比率
ダウは北米、アジア、ヨーロッパ、中東など、世界各地で事業を展開しています。ちなみにダウは日本市場においても展開しており、東レや三井との合弁会社も有名です。
・EPS推移
過去5年のEPS推移を示します。2020年は新型コロナウイルスによる需要減で業績が落ち込みましたが、2021年は景気回復とともに売上・利益が急伸し、過去最高の水準となりました。しかし2023年は在庫調整や需要減退の影響で収益が大幅悪化し、EPSが大幅に減少。2024年はコスト削減策などで若干持ち直したものの、本格的な回復には至っていません。EPSの推移については日本の総合化学メーカーと似た傾向を示しています。
・純現金推移
純現金推移をみると、2024年はマイナスとなっています。営業キャッシュフローの減少に加えて、設備投資や構造改革費用の計上などが重しとなりました。今後もキャッシュフローのマイナスが続き、財務余力が減少する場合、配当の維持が難しくなる可能性があります。したがって配当維持には、キャッシュフローの改善が課題と言えます。
・株価推移
業績に合わせて、株価も上下が続いてきました。足元では下落局面にあり、特にトランプ関税の公表後は急落。現在の株価はコロナ禍の水準に近づいています。株価が高値圏にあった2021~2022年は利回りが約4~5%でしたが、株価が低迷した現在は10%近くにまで達しています 。非常に魅力的な利回りですが、トランプ政策による景気減速が減配リスクを高めている状況です。
・今後の見通し
ダウは基礎化学品を含む総合化学であるため、景気や外部環境に敏感な面があります。そのため、現在の景気悪化の影響を受けて業績が落ち込むリスクがあります。したがって、短期的には楽観視できない状況が続くとみられます。
ただ、前向きな材料もあります。ダウはすでに構造改革に着手しており、25年1月に10億ドルのコスト削減を公表しています。こうしたコスト削減により、収益性の向上や財務安定性の回復が期待されます。また成長戦略が実を結び、収益に繋がるかも重要です。
したがって、しばらくは底値で推移すると予想されるものの、ポイントは構造改革の進捗や景気サイクル、またトランプ政策によってトレンドの転機が訪れるか。引き続きウォッチしてタイミングをうかがいたい銘柄ですね。
コラム:ダウとデュポンの統合について
少し余談になりますが、ダウとデュポンは、2017年に「ダウ・デュポン(DowDuPont)」として合併しています。これは単に会社の規模拡大のための統合ではなく、「選択と集中」や「節税」を目的とした再編劇でした。両社の事業内容の把握にもつながるため、簡単に経緯を解説します。
当時、両社は医薬品や農薬といった分野で大きな成果が出せず、加えてアクティビスト(物言う株主)からのプレッシャーも強まっていました。平たく言えば、「儲からない」、「シナジーが薄い」事業は切り離して、それぞれ得意な分野に集中したい、そんな共通の思惑があったのです。
そこで2015年、両社は「まず合併してから、のちに分社化する」という少し変わったスキームを採用。表向きには「世界最大の化学会社の誕生」と打ち出されていましたが、実際は税制メリットや事業の整理が本当の狙いでした。
合併は2017年に完了し、計画通り2019年には3社に分割されました。それが、
総合化学の道を歩む ダウ
特殊化学に特化した デュポン
農業科学を集約したコルテバ(Corteva)
の3社です。それぞれが独立した上場企業として、新たなスタートを切りました。
この動き、冷静に見れば「事業の入れ替え」で済みそうな話にも思えますが、それをあえて“統合→分割”というかたちにしたのは、税務や経営上の効率を最大限に高めるためだったと言われています。
なお2024年、デュポンは事業をさらに3つに分ける再編計画を発表しています。エレクトロニクス、水処理、バイオ医薬の3分野に分割し、各々を上場させる方針です。それぞれの得意分野に集中することで、経営資源の効率化を目指すとみられます。
※2025年水処理部門の分離は中止されました。
3.バフェットが保有する石油企業
本章では、有名な投資家ウォーレン・バフェット氏の保有銘柄について解説します。
バフェット氏の投資の基本には、「強みを持つ企業にしぼって投資する」「経営者の人柄や株主への配慮を重視する」「短期的な株価の動きに左右されず、長期的な価値を見すえる」といった考え方があります。このようなバフェット氏の投資スタイルを理解したうえで保有銘柄を知ることは、自身の投資戦略を構築するうえでも参考になります。
3-1. シェブロンとオキシデンタル
バフェットが保有する石油関連銘柄として、シェブロンとオキシデンタル・ペトロリアムが挙げられます。どちらも石油事業を主軸としていますが、シェブロンは上流(採掘)から下流(精製・販売)までを手がける石油メジャーであるのに対し、オキシデンタルは上流部門に特化した、いわゆる独立系石油会社です。
・シェブロンとオキシデンタルの概要(2025/4/15時点)
では、なぜバフェットはこのような石油系企業に投資しているのでしょうか。その理由のひとつに挙げられるのが、株主還元の魅力です。
石油企業は原油価格の変動によって業績が大きく左右されますが、それでも世界的なエネルギー需要の底堅さに支えられており、長期的には安定したキャッシュフローを確保しやすいという特徴があります。このような背景から、石油企業は安定した配当が期待される企業として投資家から評価される傾向にあります。
さらに、研究開発型の化学メーカーと比べて、石油企業は研究開発費が少なめであることも特徴です。必要な投資を絞り込みつつ、得られたキャッシュを配当や自社株買いなどの株主還元に積極的に充てる企業も見られます。本章では、そうした株主還元志向の色合いが強いシェブロンを取り上げ、その特徴を詳しく見ていきます。
3-2.個別分析:シェブロン
シェブロンは米国を本拠とする世界最大級の統合型石油企業。 エクソンモービル、シェル、BP、トタルエナジーズなどと並ぶ「スーパー・メジャー(Supermajors)」の一角で、アメリカではエクソンモービルに次ぐ第二位の石油企業です。
・事業内容
その事業内容は、油田を見つけて掘り出す上流と、精製・販売する下流に分けられます。規模感は下流の方が大きいものの、利益ベースでは上流の貢献度が高くなります。
Chevron 2023 Annual Report Supplement
・業績
石油系企業ということで、シェブロンの業績はエネルギー価格の変動に大きく左右されます。2022年は原油価格高騰を受けて過去最高益を記録。当期純利益は約354.7億ドル、日本円にするとおよそ5兆円で、とんでもない額を稼ぎました。しかし足元では、原油価格の下落から業績も停滞しています。それでもROEやROAは良好な水準を保っており、自己資本比率も6割前後と健全な財務状態を維持しています。
・強み
では、あまたある石油メジャーのなかで、シェブロンの強みはなにか。一つ上げるとすれば株主還元方針で、なんと37年連続増配中です。昨今の業績の停滞から、配当利回りもおよそ5%の高配当銘柄となります。
つまり、シェブロンの業績は外部要因である原油価格の動向に大きく左右されるものの、安定した財務基盤と株主への積極的な利益還元策が特徴といえます。
・今後の見通し
では、今後の見通しはどうか。
シェブロンの業績は、原油価格の変動という外部要因に左右されやすく、世界経済の減速感から足元の状況は不透明です。そのような中でも、人員削減によるコスト効率化や、ヘスの買収による有望な資産の獲得を通じて、中長期的な成長を目指しています。
特にヘスの買収は、生産量の増加とキャッシュフローの拡大に大きく貢献する可能性を秘めていますが、エクソンモービルとの仲裁という不確実要素を抱えています。
まとめると、シェブロンは堅実な財務体質と高い株主還元意識を持つ企業と言えます。短期的には原油価格の動向に注意が必要です。中期的には人員削減の進捗、そしてヘス買収の成否がカギを握ります。
バフェット氏の銘柄選定には、学ぶべき点が多くあります。皆様もバフェット氏保有銘柄を改めて確認されてはいかがでしょうか。
出所:moomoo証券
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コラム:バフェットが保有する化学メーカー
ルブリゾール(The Lubrizol Corporation)は、アメリカ・オハイオ州に本社を置くスペシャリティケミカルメーカーで、潤滑油添加剤や高機能材料の開発・製造を行っています。2011年、バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社(Berkshire Hathaway Inc.)がルブリゾールを買収し、以降は同社の完全子会社として運営されています。
したがって、ルブリゾールの株式は公開されておらず、直接投資の対象とはなりません。今回は、バフェットがどのような化学銘柄を選定しているか参考とするため、事業の特徴を簡単に解説します。
ルブリゾールは、添加剤事業 と先端材料事業の二つの主要な事業セグメントを有します。
① 添加剤事業(Lubrizol Additives)
エンジンオイル、燃料、その他の輸送関連流体、および工業用潤滑油向けの添加剤
② 先端素材事業(Advanced Materials)
パーソナルケア、医薬品、食品業界向けの特殊材料や化学品、および工業用コーティングなど
特徴は、ニッチで高付加価値な製品を手掛けている点。例えばプラスチックをはじめ、あらゆる製品は素材だけで成り立っているわけではなく、目的に応じて多種多様な添加剤が少量ずつ配合されていることがほとんどです。ルブリゾールは潤滑油に機能性を付与する添加剤を得意としているわけです。
マクロな素材に比べるとこうした添加剤は使用量では少ないものの、機能性を付与する添加剤は技術力勝負であり製品価格も比較的高く、業績も比較的安定する傾向にあります。
日本の化学メーカーでいえば、事業内容や特徴はADEKAや日油が近く、両社ともに優良な高収益企業です。
今後、バフェットが日本の優良ニッチ企業に注目してくれることを切に願っています。
4.まとめ
最後まで読んでいただきありがとうございます。
アメリカの化学・石油業界は、いままさに逆風下にあります。トランプ政策による関税リスクや景気減速の影響を受けつつも、長期視点では企業ごとの構造改革や高い株主還元意識といった、ポジティブな材料も随所に見られます。
中でも、ダウの大胆な構造改革と高水準の配当利回り、そしてシェブロンの37年連続増配という還元意識は、いずれも長期投資において検討材料となり得ます。
バフェット氏の投資スタイルが示すように、短期的なノイズではなく「事業の本質」に着目する姿勢こそ、今のような混迷期には必要不可欠ですね。
ごりお
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